こんにちは,ランマニアです。
前回は最大酸素摂取量を高めるための練習,インターバルトレーニングについて述べました。最大酸素摂取量は人間の持久的能力の中でも,酸素消費量に着目した能力。できるだけ多くの酸素を取り込み,それを消費できる力。それが高い方が,できるだけ速いペースで走ることができる。そういう理屈です。
今日紹介するのは、人間の持久的能力のもう一つの指標。それが
「無酸素性作業閾値(AT)」です。
ランマニア,大学時代は一応運動生理学を専門にしていて,主にこのATのことを調べている時期がありました。なので多少詳しいはずなんですが,こういう理論は日進月歩ですから,ランマニアが学んだ頃よりはだいぶ知見が蓄積されてきているかもしれません。詳しくは以下の厚労省のサイトを参照ください。
無酸素性代謝閾値 / AT
前回も話した通り,人間はエネルギーを得るために酸素を必要とします。筋肉中のミトコンドリアという細胞が酸素を使って糖や脂肪からエネルギーを作り出します。高校で生物を選択した人はATPがどうのこうの,クエン酸回路どうのこうの,っていうものを学んだと思います。
このエネルギー供給系が優れもので,一度に得られるエネルギー量はたいしたことはないものの,十分な酸素量と栄養があればかなりの長時間エネルギーを供給し続けることができるのです。
つまり,我々はこのエネルギー供給系を働かせて長時間走っていることになります。
ところが,もっとたくさんのエネルギーが必要な場面,例えば,800mとか400mとか,さらに言えば一瞬の爆発力で走るような短距離走とか,こういった場面ではこの「のんびり系」のエネルギー供給系ではエネルギーの量が全く足りなくなるのです。そして,これが人間のまた凄いところなのですが,そういう場合に働くエネルギー供給系も別に存在しているのです。それが,解糖系とかクレアチンリン酸系とか,爆発的なエネルギーが得られるものの,一瞬で枯渇してしまうタイプのエネルギー供給系です。
我々はゆっくりと走って,こののんびり系のエネルギー供給系を使えているうちはいいのですが,次第にペースを上げていくと,こののんびり系でエネルギーが足りなくなる場面がやってきます。するとエネルギー供給系を切り替えてさらに素早く多くのエネルギーを供給できる解糖系を使い始めます。そうすると,もうそのスピードで走れるのには限りが出てきます。なぜなら,解糖系はそれほど長くは持たないからです。
そして,重要なのは,我々が長距離を走る際に使っているのんびり系のエネルギー供給系ではたくさん酸素が使われるのに対し,解糖系ではそれほど酸素を必要としないことです。しかし酸素なしでエネルギーを発生させると,「乳酸」という物質が血中に大量に現れます。(乳酸が疲労物質であるかどうかは議論されていて、最近では再び脳などのエネルギーに利用されるため、疲労物質という概念ではなくなりつつあるようです)
長い距離をいつまでも走れるペースで走っていたところから、次第にペースを上げていくと、あるところからこの血中の乳酸濃度が急激に上昇するポイントがあります。のんびり系から解糖系も使われるようになるポイントです。この境目のことを、
無酸素性作業閾値(AT)または乳酸性作業閾値(LT)
と呼んでいるのです。
つまり、このATが高い人ほど、より速いペースで長く走れる力がある、ということです。
なぜでしょう。
ATが高い、ということはそれだけ速いペースでも解糖系が使われない、ということです。逆にいうと、ATの高い人は、ATが低い人にとって速いと感じられるペースで走っていても、のんびり系のエネルギー供給系を使い続けて走り続けることができる、ということです。
みなさんも、トップアスリートがフルマラソンを走っている時のペースを見たことがあると思います。もう信じられないスピードです。テレビ中継で横を走る子供たちがあっという間にバテているのに、あたかもジョギングのような涼しい顔でいつまでも走り続けています。なぜなら、彼らにとってあのスピードはATのペースにもなっていないのんびり系のエネルギー供給系を使っているペースだからです。
みなさんもうお分かりだと思います。
長い距離をできるだけ速く走りたければ、ATを高めること。
これが必須の条件になります。
次回は、このATを高めるための練習について話します。